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妊娠中・授乳中の片頭痛治療

監修:富士通クリニック 頭痛外来
五十嵐 久佳 先生

妊娠中・授乳中の片頭痛治療について考えてみましょう

妊娠中・授乳中の女性の患者さんにも、それぞれ適した「片頭痛コントロール」の方法があります。片頭痛を有する女性で、妊娠または妊娠の可能性がある、または妊娠を希望している場合は、片頭痛治療薬を使用するにあたって、妊娠中・授乳中の対応を考えておきましょう。ただし、妊娠中には多くの前兆のない片頭痛の患者さんで片頭痛発作が軽減するため1)、妊娠中は片頭痛ストレスの頻度は減少する可能性があります。
また、最終月経初日~妊娠27日目まではお薬を飲んでも胎児に影響はないとされているため、この期間に片頭痛治療薬を使用したとしても心配はないと考えられています。ただし、妊娠4~12週末までは胎児の器官形成期にあたるため、お母さんがお薬を飲むと胎児形態異常のリスクがあります。それ以降の妊娠期も胎児へのお薬の移行の可能性を考え、できるだけお薬の使用は控えることが望ましいのですが、発作が重度で治療が必要な場合には、お薬によっては使用できる場合もあります1)。授乳期にお薬を使用する場合、多くのお薬が母乳に移行すると考えられていますが、その量はきわめて少ないものが多いため、一般的に使用される片頭痛治療薬の多くは使用可能とされています。しかし、中には使用できないお薬もありますので、お薬を使用する場合にはかかりつけ医にご相談ください。

急性期治療

治療が必要な場合、急性期治療薬としては、アセトアミノフェンが使用されます。また、トリプタンは今までの調査では胎児形態異常が増える、ということはなく、妊娠中に強い片頭痛発作がみられる場合には使用されることもあります。授乳中にトリプタンを使用した場合には、使用したお薬に応じて使用後12時間もしくは24時間は授乳を避けるとされていますが、国立成育医療研究センターでは一部のトリプタンは授乳中にも安全に使用できると考えられるお薬のリストにありますので、痛みが強い場合にはかかりつけ医に相談するとよいでしょう1,2)

予防治療

妊娠中には片頭痛発作の回数が少なくなります。特に、妊娠後期では60~80%の患者さんで片頭痛発作が軽くなるといわれています。一方で、出産後1ヵ月以内で半数以上の患者さんが片頭痛を再発するとの報告があります1)
妊娠中は、予防治療薬をできるだけ使用しないことが望ましいですが、もしどうしてもお薬が必要なときは、治療上の有益性が危険性を上回ると医師が判断した場合に投与可能なお薬が選択されます1)

妊娠中や授乳中に「お薬を飲むかどうか」について悩まれたときには、自己判断で市販薬などを飲まずに、必ずかかりつけ医に相談しましょう。また、国立成育医療研究センターのウェブサイト「妊娠と薬情報センター」から専門の医師・薬剤師に相談することもできます2)

  • 1) 日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会監修. 頭痛の診療ガイドライン2021. 医学書院, 2021.
  • 2) 国立研究開発法人 国立成育医療研究センター. 妊娠と薬情報センター 
    https://www.ncchd.go.jp/kusuri/(2020年10月2日閲覧)